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ラ・ラ・ランド

 今日は映画鑑賞が趣味の先輩に勧められ、ハリウッド映画「ラ・ラ・ランド」を観に新宿へ向かった。正直なところミュージカルには縁がなかったのだが、友人に誘われたので試しに観てみることにした。結論から言って、観に行って良かったと思っている。

 映画はロサンゼルスの青空から始まる。バックのラジオ放送ではチャイコフスキーの「1812年」が流れている。開始数分後、主人公を巻き込む交通渋滞の場で突然ミュージカルが始まる。いわば「これはミュージカル映画ですよ」という紹介の役割を担う名刺代わりのようなこのミュージカルは、出演者の表情を観ていても、ダンスを観ていても、とにかく楽しい。何がと問われると明確には答えられないが、幕開けに続くハイテンションなミュージカルに乗せられて瞬く間に映画の世界に引き込まれてしまった。やられた…一度引き込まれるともうしばらく戻れない。日本に住んでいると一度は憧れるであろう欧米の垢抜けた街並みを中心に物語は進む。主人公は、短大を中退し女優を目指してオーディションを受け続ける傍らカフェでアルバイトをするミアと、ジャズを愛しジャズピアニストとして生計を立てようとするセブの2人。それぞれ自分の夢を実現しようとするが空回りをしているという似通った境遇の2人がふとしたきっかけで顔見知りになり、互いの人生に刺激を与えていく。だらだらとあらすじを書くことになりそうだが、あまり面白くないだろうからここらで止めて、以下に個人的な感想を述べたい。

 この映画で注目すべき点は3つ。1つ目は、カメラワークである。この映画では登場人物の心情を思わせるような絶妙なカメラの切回しによって視聴者を引き込ませている。ミアとセブが喧嘩をしたシーンでは、ミアを映しているカメラが上下左右にブレている。ここでは思いを吐露し、またセブの意見を聞いて考えがまとまらないミアの焦ったさのようなものがうかがえる。また、エピローグのセブが演奏するシーンでは、セブが演奏する緊迫する様子を映した後、カメラがじっくりと、しかし矢継ぎ早に回転することによって観客の様子を満遍なく映している。この回転する約1秒の間に、演奏する者と聴く者の張り詰めた緊張感の差をはっきりと感じ取ることができる。ほんの数秒のカットでさえ深い意味があるのではないか、と感じさせられるカメラワークである。

 2つ目に注目したいのはミュージカルだ。この作品では、要所要所でそのタイミングにおける登場人物の心情がミュージカルとして表現されている。冒頭で披露されている生きる活力や、主人公2人が夜景をバックに素直になれずお互いにすれ違いながらも心を近づけていく様子、同棲しながら2人の未来を語り合う様子など、いずれのミュージカルシーンも明快であり、何より観ていて楽しい。ミュージカル映画は、そうでない映画と比べて作品のメッセージの質が異なっている。そしてそれは伝わり方の違いによると考えられる。通常、映画において作者が伝えたいことは、登場人物の発言という形で扱われることが多い。登場人物のセリフというフィルターを通すことで、それまでの話の流れを汲んで観客がメッセージをイメージする。それはスクリーンという1つの世界において観客が登場人物に感情を移入しやすいからにほかならない。また、ここで流れているBGMも雰囲気の盛り上げ役として作用する。セリフ単体では伝わりづらいメッセージも、BGMの醸し出す雰囲気によってメッセージの大枠が浮かびやすくなるという作品も多い。しかし、ミュージカル映画はそうではない。セリフが歌詞となり、BGMと一体化したメッセージになっているのである。さらにミュージカルの場合、ここにダンスという体の動きが加わり、メッセージ伝達の手助けを担っている。登場人物の気持ちと雰囲気を形作るBGMが1つになっていることで、観客は見て聞いたままの印象を受け止めることができる。これは大人だけではなく、子供にとっても同じように伝わる。この「変に細かい説明をくどくどとされた時より思い切った少ない言葉で説明された時」のようなわかりやすいという質がミュージカル映画ならではの良さなのだと思う。

 3つ目に注目したいのは、音楽である。劇中では、ミュージカル以外にもBGMなどのインストゥルメンタルとしての音楽が流れている。中でも印象深いのが、「ミアとセブのテーマ」という曲。これは、ジャズバーでアルバイトをするセブが演奏していた曲であり、この演奏に惹かれたミアはこの曲を通じて再びセブと巡り会うことになる。いわば2人にとっての運命の曲なのである。映画のエピローグでは、2人は5年後にセブの経営するジャズバーで邂逅することになる。思いもよらず客席から舞台を見つめるミアを見つけたセブはどう思ったのだろうか。おもむろにセブはこの曲を演奏する。劇中では何度となく演奏され、またいくつかの異なったアレンジによる演奏もあり、作品を観終えた後もしばらく耳から離れないだろう。名作と呼ばれる劇場作品には、それについて回るテーマ音楽存在していることが多い。この映画といえばあの曲を思い出す、といった調子だ。有名なところでは「タイタニック」「ニュー・シネマ・パラダイス」などの映画で、いずれもテーマ音楽とともに長年愛され続けている作品である。アカデミー賞を6部門受賞した今作は、上記の例に漏れず「ミアとセブのテーマ」とともに後世に愛され続ける作品となるだろう。